英語能力とほとんど関係なかった英文事務職

私がその事務職の面接を受けるきっかけになったのは、英語での読み書きが可能はもちろんのことですが、理系のバックグラウンドがあることも重要視されていました。研究職ではなく事務職でしたが、数年間厳しい環境で働いてきた私にとって、少しゆったりと働きたいという気持ちが当時強かったです。また、研究職として何年先もラボで立ち仕事をする自分の将来像にもあまり希望がありませんでした。

ということで、まず事務職から始めて経験を積み(実は事務職は初めての経験でした)、その後のキャリアを考えていこうという希望もありました。

さて、面接では英語能力について「この英訳をしてください」から始まって「和訳も試してください」。簡単な会話能力についても聞かれました。それまでの私の職では普通に英語で業務をする環境だったので、その旨を伝え、コミュニケーションについても何ら問題ないことを伝えました。「ビジネス英語はどうですか?」と聞かれましたが、こういう質問に対しては、はっきり言って、何と答えたら良いのか戸惑いました。何を持って「ビジネス」というのかの定義もよくわかりませんし、事務職なのに交渉能力という意味で質問されているのかもしれない、と首をかしげてしまいました。面接官の中に私の戸惑いを理解してくれた方がおりまして、「あなたの場合なら数年間研究職で英語を使って仕事をしているということなので、おそらくビジネス英語のレベルも高いと思ってよいかもしれませんね。」と助け舟を出してくれました。

既に面接を受けている最中に手ごたえがあったので、きっと私はほぼ採用されることに決まっているのだろうと思っておりました。ですので、採用通知にもさほど驚きませんでした。それよりも私の新しいキャリアがこれから始まる、と勝手にオフィスで事務をしている私を想像して期待に胸をふくらませていました。

その期待がもしかしたら間違っているのかもしれない、と感じたのが勤務3日目。最初の数日間は特に頼まれる仕事もなく、時間をもてあましていました。が、最初はこのくらいのペースが普通の会社なのかもしれない、と気を取り直して帰宅時間まであれこれ会社の資料を読みつつ過ごしました。ところが、その後もこれといって仕事が与えられるわけでないまま2週間が過ぎました。部長から呼び出されたので、やっと仕事が出来ると思って、話を伺ったところ、「この英語の書類2000ページをコピーしてください」とのこと。これは英文事務に入るのかしらと思いつつも、初めての仕事と呼べるらしい仕事なので一日中コピー機の前にはりついて書類をコピーいたしました。その後も、特に仕事がなく、いつも「待ち」の状態。たまに頼まれる仕事といったら「**は英語で何と言うんだっけ?」と聞かれる程度。内心「オンライン辞書でいくらでも調べられるのだけど」と思いつつ、同僚や上司に「私だったらこう言います」という英単語や英文をその都度教えていました。

仕事がないのもさることながら、今度は日本語でもよくわからないような内容のメールを英語に訳して相手方に送って欲しいという仕事がまわってきました。そのまま訳すのはほぼ不可能なので、メールを書いた方に「この部分とこの部分がよくわからないのですが」と質問するも、「あ~、そうかぁ~。どうしようか?どうしたらいい?」と逆に相談される始末でした。私には決定権もないし、そのメールを書いた本人でもないので、意訳することは出来ません。一度だけ「適当に訳してとにかく相手に投げてみてくれる?」と言われて、その通りに英訳してメールしましたが、相手からすぐに電話がかかってきました。「内容が全然わかりません。Aを推進しているのか、それともBを進めたいのか?どちらなのか?」と。

3ヶ月勤めましたが、このままこの会社にいてもスキルアップどころか、私の大切な時間を無駄にするだけと思いました。運良く、別の会社の英文事務職の仕事をさせて頂けるとのことで、件の会社は即辞めさせていただきました。早めに決断して本当によかったと思います。