私が勤務していたのは、とある輸入業者でした。勤務と言っても正社員ではなく派遣社員です。派遣会社から説明を受けた仕事内容によると、この会社は医療品関係を専門に扱う輸入業者で、数多くの倉庫も保有しているらしく、その倉庫に運ばれてきた様々な荷物に関する英文の書類の管理や分類、さらに海外の取引先とのやり取りなどを行なうために、英語が必須であるとの事でした。
私は元々医療関係の仕事に興味もありましたし、アメリカ留学から帰国して間もなかったこともあり、応募しました。 派遣社員ということで、最初に実質的な面接でもある顔合わせがあり、派遣会社の担当者とともに企業を訪問し簡単な仕事内容の説明を受けたり、こちらからの疑問点を投げかけたりしたのですが、企業側担当者の話は当然ながら派遣会社から聞いていた仕事内容と大差はありませんでした。
ただ、こちらも事前の段階で伝えられてはいたのですが、繁忙期には残業が多く発生してしまう可能性があるとの事でした。 当然ながら派遣社員ですので、社員のようなサービス残業というのはありえませんので、私としてはちゃんと残業代をもらえる残業なのだから、全く苦になりませんし、喜んで会社のために働きたいと思っていました。 そんな前向きなところが評価されたのか、採用が決定しいよいよ勤務が始まりましたが、勤務地は東京の湾岸エリアにある倉庫街でした。
当然輸入された商品を扱うわけですから、どこかのオフィスでのデスクワークとは思っていませんでしたが、殺風景な倉庫街に派遣会社の担当者と一緒に初日の出勤をしたあの日の光景は今でも忘れれません。 最初の三日間は、教育担当の社員から仕事内容のレクチャーや企業のコンプライアンスに関しての研修がありましたが、その時点で殆ど英語の能力に関するテストや質問、さらに英語を使うシーンなどについての説明が無く、当初イメージしていたものと乖離を感じ始めました。
研修が終わり仕事がスタートしたのですが、最初に与えられた仕事は送られてきた英語の伝票を読み、それを対応している棚に収めるという仕事でした。英単語はもちろん医療用の専門的なものですが殆どが決まりきった言葉で、果たして英語力が必要なんだろうか?と思うような単純さでした。 実際、周囲で働いている社員の多くは全く英語が出来ない人でしたが、長年見ている単語なので覚えてしまい何の問題もなく仕事をこなしていました。 それから毎日同じような仕事の繰り返しです。英語能力を生かして仕事をしたいと思っていたにも関わらず、実際やっているのは倉庫内のピッキング作業です。
あまりにも最初の説明と違うので、派遣会社の担当者との勤務開始後の面談で現在の状況を伝えたのですが、担当者は「おそらく最初は仕事の概要を掴んでもらうために、倉庫内の動きを知れる仕事をやってもらっているのだと思います」との返事。 とりあえず、その言葉を信じたものの、そのあと何ヶ月たっても毎日毎日荷物を持って棚に運ぶ仕事ばかりの日々でした。 たまに英語が出来ない社員が読めない、英語で書かれた仕様書やメールが来た際に翻訳して伝えたりするといった、倉庫内作業とはまた違った仕事もありましたが、感覚としては英語を使った仕事をしているというよりは、倉庫内作業をしているけど、英語が使えるのでちょっと読んであげているくらいの感覚です。
面談時にも伝えられたとおり、繁忙期に入ると残業がかなりの時間発生しましたが、英語の書類やメールを次々と処理して忙しい…といった当初のイメージとは裏腹に、たくさんの商品が納入されて、それの仕分け作業や出荷作業に忙しいという本当に肉体労働的な忙しさでした。
結局、最初の半年間の契約期間が終わったところで、こちらから更新を申し出ずにこの会社での勤務は終了となりましたが、いまでも英語力の何が必要だったのか疑問に思ってしまいます。